ある日のお抱えシェフ…

河童の川流れ』
泳ぎのうまいかっぱでも、川におぼれて流されることがあること。


シーン1. ある日の午後.....

都内某所にてパーティーの打ち合わせ。

『この場所でやりたいのですが、如何でしょうか?』

(すごい!スカイラウンジかぁ〜。うわー眺め最高!!)



『楽しい仕事が出来そうでしょ!!』

『そうですね!楽しめそうですね!』

『ただね、時間制限あり!そして設備の火元が IH なんですよ〜、大丈夫?』

『はい!時間制限もIHも何度も経験してますから大丈夫ですよ!』

『そうですか〜!それなら安心だ!』

『こちらが提案書です』

『うわっイベリコ仔豚丸焼きがあるんですか!!それは楽しみだなあ!!』

『それでは当日!』


こんな何気ない打ち合わせから、今回のお抱えシェフは幕を開けました。






シーン2. 当日...

『すいませ〜ん!今日のスカイラウンジ予約の者ですが〜』



えっ!予約??

(『えっ!』って何だよ!?こっちはちゃんと予約してるんだよ!)


本日のパーティーの食材搬入に来ました!』(ビシッ)

此所ではないですよ!』(キッパリ)



  ココデハナイ??? …まさか…!!




 がひーん!

 場所 間違えたあ〜〜〜〜!!!



ぐわ〜どうしよう!!30分のロスタイム!!!!






シーン3. 無事、現場到着!

ふう〜。。。



なんとか仕込みに間に合ったぜ。

さあ、ペースを取り戻すぞ!!





シーン4. イベリコくんも美しく装われてお客様をお待ち!




『ねえ、ムッシュー、この仔豚だけどさ』

『あ!お疲れ様です!先にいらしてたんですね』

『そうなんだよ〜。一応主催者だからねえ。

 で、ムッシュー、このコが今回の為にスペインから来たイベリコ?』

『そうなんですよ〜。美味しそうでしょ!』

『遂にイベリコくんとご対面か〜!食べるの待ち遠しいなあ〜』

『後のほうで取り分けて出しますので、お楽しみに!』





シーン5. お酒も到着!

『こんにちは〜ムッシュ!お酒お届けにあがりました!』



『ありがとう!そこ置いといて!』

『はい。じゃ、よろしくお願い致します』

『はいよ〜』



…どれどれ、よっこらせっと





どわあ!!何これ!

シャンパン冷えてないじゃん!


…落ち着け!落ち着け!落ち着け!

何百回もお抱えシェフをしてきたんだ!



これくらいのリカバーができなくてどうする!!

落ち着け自分!





シーン6. パーティースタート!


『じゃあ、皆さん集まったようなので、

   そろそろ乾杯しましょうか〜!』

(さあ、スタートだ!!!!)




『乾杯〜!!』


ぱちぱちぱちぱち!!

『よし!順番に料理出ししていって!!!』
『はい!』



『次はこれ!!!』
『はい!』

(さあ!順調な流れに戻ったぞーー!)


(料理も評判よさそうだ。お客様の空気もいいぞ!)


『次!!!』
『はい!』
『次のお皿!!!』
『はい!』





シーン7. ピンチはいきなり訪れる!!!

『よし、では次の準備に…あれ?』






どひゃああー!

IHの温度が上がらない!



そうかぁー!!ここは高層マンションのスカイラウンジだぁーー!

だから温度ここまでなんだぁーっ!



お皿そこに並べて!

『はい!』

次の料理のお皿も出しておいて!!!

『はい!』






シーン8. 本日のメイン料理まで後一息だ!





ぐあっ!

こんどは時間かっ!!


『焦ってもしょうがないから!

 はい!この黒鯛のロースト残りのテーブルに出して来て!』

『え!?…は、はい!』


『は〜い、皆様お待たせいたしましたあ〜!』






うわー!もはやこれまでか!!





いや!最後迄あきらめるな!!!



イベリコは時間的に取り分けるのはもう無理だ!



よし!






せめてこのメイン料理までは食べてもらおう!!




今日のラストを飾れる一品だ!!













『あの〜…デザートは…』

『すいません!デザートはお持ち帰りで……』

(くぅ〜泣きたい!でも笑顔笑顔!)





シーン9. 撤収完了


『ムッシュー、おつかれさまでした』

『さすがにクタクタでしょう?』

『はい、さすがに今日は........疲れました』

『ムッシュー、あのイベリコはオスなんですか?メスなんですか?』

『あの子は実はオスなんですよ』

『そうなんですか〜!』

『イベリコまでたどり着けなかったのは残念だなあ〜

 おいイベリコくん、お前は明日スペインに帰っちゃうのかい?』

『どうなんでしょうね〜(汗)』




今日はまるで、日本のことわざでいう『河童の川流れ』のような一日でした。



でも………



どんな川に流されようとも、

ムッシューは流されっぱなしの河童ではありません!!





シーン10. サプライズ!!!!


翌日…

『あの…これ昨日のイベリコ仔豚です。』


『皆様で召し上がってください』




『美味しい!このバジルソースがたまらない!』







シーン11. お抱えシェフの心得……


何年前だろう?

僕が29才の頃かな〜

僕は天狗になっていた…

僕は腕のいいシェフだ!っと言い切っていた。


その天狗の鼻をへし折られた………



腕のいいシェフなんてこの世の中には五万と居る


美味しい物を創れたらいいじゃないか?

それだけでは腕のいいシェフとは言えないな!


お抱えシェフは腕がよくて当たり前!


大切なのは....

皆が『幸せだな〜』と思える時間を

主催者と一つになって作り上げられるかどうか…




今回の主催者さんへ

本当に、心より御礼を申し上げます……


ありがとうございました。